Monday, 6 March 2017

『映画』Gimme Danger(ギミー・デンジャー)


2017226
Gimme Danger(ギミー・デンジャー)」・・・「客席にダイブして、避けられて、歯を折った」
公開年: 2016
製作国: アメリカ
監督: ジム・ジャームッシュ
出演: イギー・ポップ、ロン・アンシュトン、スコット・アシュトン、ジェームズ・ウィリアムスン
見た場所: Alliance Francaise

 SCUM Cinema主催のSCUFFが今年もやって来た。SCUFFは、Singapore Cult & Underground Film Festivalの略。SCUM Cinemaは映画好きの仲間達が設立した団体。簡単に言うと、市井の映画ファンが自分達の好きな映画を、一般の人々にも見せるべく上映会を行っている。その彼らが持って来る映画というのが、いわゆる映画雑誌「映画秘宝」の読者が好きそうな映画であるところに特徴がある。なにぶん個人で行っている活動のため、懐具合は厳しいらしい。そういうこともあって、できるだけSCUM Cinemaの上映会は支援しようと思っている。

 しかし、今年のSCUFFはこの一本しか見に行くことができなかった。今年のラインナップは、旧作ではジャック・ヒル監督、パム・グリア主演の「コフィー」、リンゴ・ラム監督、チョウ・ユンファ主演の「プリズン・オン・ファイアー」。新作はニコラス・ペッシェ監督の「The Eyes of My Mother」と、このジム・ジャームッシュ監督作「Gimme Danger(ギミー・デンジャー)」である。セックス、アクション、ホラー、ロックとなかなかバランスの取れたプログラムになっている。

会場であるフランス語学校Alliance Francaiseの季刊誌(無料)より。
外部のイベントにも関わらず、ちゃんとSCUFFのことを掲載して宣伝している。親切。

 「ギミー・デンジャー」は、ロック・ミュージシャンであるイギー・ポップの伝説的なバンド、The Stooges(ザ・ストゥージズ)の足跡を追ったドキュメンタリーである。特にファンというわけでもなく、「ストゥージズ、見たなぁ、2007年のフジロック・フェスティバルで・・・」くらいの私だが、見に行った。それと言うのも、以前ジム・ジャームッシュ監督作「イヤー・オブ・ザ・ホース」を見て、とても印象に残っていたからだ。

 正直に言うと、それが作品自身によるものなのか、それとも監督の外見に対する(私の)偏見から来ているのかよくわからないのだが、私はジム・ジャームッシュの作品が醸し出しているあの、「頭が良くてクール」な感じというのが苦手だ。しかし、ニール・ヤングとクレイジー・ホースを描いた「イヤー・オブ・ザ・ホース」は好きな映画だ。ツアーの移動中の車中で、「俺はここでハモリたいんだよ!」などと、高校生のように熱く言い争ういい年をしたおじさん達とすごい演奏。いい映画だと思ったのだった。そんなわけで、ジム・ジャームッシュが今度はストゥージズのドキュメンタリーを撮ったというので、期待して見に行った。

 以前、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を見た知人が、「あの監督は、なんでアメリカを共産主義時代の東ヨーロッパみたいに撮るんだろう。」とぼやいていたのが忘れられない。そんなジム・ジャームッシュだが、ドキュメンタリーは観客に対して優しい作りで、ストゥージズのことをよく知らない人にもわかりやすい。

 1974年、ストゥージズは解散し、ドラムセットを売ってバスの乗車券を買い、スコット・アシュトン(ドラム)は故郷に帰った。アシュトン兄弟(ドラムのスコットとギターのロン)の妹は、兄達がストゥージズでの活動を辞めてとてもほっとした。この作品はそういうところから始まる。その後は、主にストゥージズの結成から(74年の)解散までが概ね時系列で語られている。映画は、ボーカルのイギー・ポップを中心に、メンバー達や元マネージャーといった、バンド・メンバーとごく近しい人達へのインタビューで構成されている。恐らく当時の写真や映像があまり残っておらず、使えるものが多くはなかったためかもしれないが、所々バンド・メンバー達のおかしな逸話がアニメーションによって再現されている。また、イギー達の話に合わせて、例えば鉄工所のイメージ映像が出て来たり、古いテレビ番組の映像が現れたり。そういう諸々の工夫で、インタビューばかりでわかりにくい(アーティストの話というのは、わかりにくいものだと思う)作品になるのを避け、観客が楽しく見られるように作っている。これは、私のように英語力の怪しい者にも、理解を助けてくれる親切設計。

 この作品で二つ感心したことがある。それは当たり前のことかもしれないが、でも感心した。一つは、この作品がストゥージズについてであり、イギー・ポップについてではないという点を徹底している点だ。ストゥージズ結成前の経歴(というほどでもないが)については、イギーに語らせているものの、解散後の彼の活動については全くフォーカスされていない。解散後、そして2003年になって再結成!といきなり話が飛ぶ感じである。この間のイギー・ポップについて、いくらでも面白い話を作れるだろうにも関わらず、である。それよりも、シャイな(?)スコット・アシュトンを捕まえてインタビューを行い、またバンド解散後、スタジオ・エンジニアの仕事が嫌になり、エレクトロニクス分野でエンジニアとして華麗に転身したジェームズ・ウィリアムスン(ギター)について触れていたりする。

 もう一つは、関係者にしかインタビューをしていない点。

 以前、台湾のある映画監督のドキュメンタリー映画を見た時、私があまり好きになれなかったのが、映画史学の研究者や別の映画監督へのインタビューを盛り込んでいたところだ。確かに少々難解な作品を作る映画監督ではあるが、研究者の数分のコメントが作品をより深く鑑賞できるほどの助けになるわけでもない。ましてや、有名監督がその監督の作品を好きだと言ったからって、いや、私は好きじゃないかもしれないし、関係ないんじゃないのか、と思う。たぶんこのドキュメンタリー映画を作った監督は、この映画監督が業界の中でも高く評価されていることを世間に知らしめたかったのだろう。でも、自分自身がその監督を最高!皆ぜひ見て!と思っているのなら、それを表現すれば十分だったのではないか、もっとインタビューすべき重要な相手は他にいたのではないか、と思ったのだった。

 話が逸れてしまったが、この「ギミー・デンジャー」には音楽評論家などは出て来ない。ストゥージズ初心者に対する親切のため(?)、最初の方で「ストゥージズは後に多くのバンドに影響を与えました」的な、へなちょこな字幕は出る。また、74年の解散後の話として、ストゥージズを愛し、カバーをする多くのバンドがズラッとあげられている。しかし、そこに時間はあまり割いていない。しようと思えば、ジャック・ホワイトでもグリーン・デイのビリー・ジョー・アームストロングでも誰にでもインタビューできたはずだ。でも、していない。作品はあくまでもストゥージズ自身のものであり、他人の意見を介入させない。

 ストゥージズのパフォーマンスは狂ってるのだが、映画の構成自体は正攻法で、醸し出すユーモアはあれど、どちらかといえば堅実。もしかしたら、それをもの足りなく思う人もいるのかもしれない。でも、クールなジム・ジャームッシュは、ミュージシャンを題材にした時、映画的なギミックを足し算引き算しなくても、彼らの存在だけで絵になる、ということを知っているのだろう。この作品で描かれていることは徹底して、「ストゥージズって、こんな奴らのこんなバンドなんだ。聞け!」ということだったと思う。そしてそこが気持ちのよい作品だった。

 ただ、ちょっと気になったのは、私のようにストゥージズに詳しくない者が見ると、いろいろと面白い話があって興味深いのだが、ものすごいファンの人にとってはどうなのだろう。イギー達の話している逸話や思いが、今回の特別の秘話なのか、それとも一般的に知られていることなのか、それがちょっとよくわからなかった。

 ところで、2007年にフジロック・フェスティバルでイギー・アンド・ザ・ストゥージズを見た時の思い出が、自分の日記に書かれていた。いわく、「イギー・ポップがアンプの上に馬乗りになり、腰を振っていたことしかあまり覚えがない。」・・・バカか、自分。ちなみに、ライヴの途中でステージ上に100人くらいの観客の若者達をあげ、皆を踊り狂わせていたことも書かれていた。彼らのライヴでは毎回恒例のことだったそうだ。曲(「No Fun」)が終わってもなかなか舞台から降りようとしない観客達とスタッフとの混乱(でも、イギー達は落ち着いている)が収束した後は、何事もなかったかのようにライヴが続けられたのだった。あの後にストゥージズを見に来た人達は、よもやあんな大変なことがあったとは、思わなかっただろうなぁ、とあの時思った次第である。201735日)

SCUM Cinemaが販売しているマーチャンダイズの一つ、トートバッグ。
絵柄の中に見たことのある人がたくさん入っている。


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