Monday 3 July 2017

『映画』恋愛与義務(恋爱与义务/Love and Duty)


201757
恋愛与義務(恋爱与义务/Love and Duty)」・・・Singapore Chinese Film Festival
公開年: 1931
製作国: 中国
監督: Bu Wan-cang卜万
出演: Ruan Ling-yu阮玲玉Jin Yan
見た場所: National Museum of Singapore

あらすじ:
 女学生Yang Nai-fan乃凡)は、近所の大学生Li Zu-yi(李祖义)と恋に落ちるが、両親に逆らうことのできぬまま、決められた結婚相手の元に嫁ぐ。それから5年後、夫婦仲は冷めているものの、二人の子供に恵まれた乃凡は、偶然に李祖と再会する。お互いにまだ相手を思っていることを知った二人の仲は、急速に深まっていくが・・・

 今年のChinese Film Festivalのクロージング作品である。「Restored Classics」プログラムの一つで、主人公の乃凡を演じるのは「サイレント映画の女神」、阮玲玉(ロアン・リンユィ)。長らく失われた作品とされていたが、1990年代に完全なプリントが(なんと南米の)ウルグアイで発見され、2014年に2Kデジタルレストア版として蘇ったものである。

 クロージング作品なので上映前に主催者の挨拶があったが、この作品を選んだ理由は、昨年のクロージングがスタンリー・クワン監督の「ロアン・リンユィ 阮玲玉」だったからだそう。これでfull circleになる、という意味合いをこめているのだ。

不倫デート中の乃凡(阮玲玉)

   無声映画ではあるが、ピアノ音楽がついている。これは、ドイツの作曲家がレストア版のためにつけたもの。字幕は元からあったもので、中国語と英語の対訳になっている。新しいキャラクターが登場するたびに、役名と演じる俳優名が字幕で紹介される。紹介されるとそれが重要な役どころかと思ってしまうのだが、実は端役ということも多くて拍子抜けする。名前のある役については、全員を劇中で紹介していくシステムらしい。

 152分という長尺のメロドラマである。しかし、一人の女性の一代記でもあり、もちろんいろいろなことが起こるので、長く感じるということはない。(サイレント映画とはいえ)白塗りも甚だしい女学生から、美しく着飾った裕福な若妻、駆け落ち後の質素な若い母親、そして生活に疲れた中年女性という変遷を、阮玲玉が演じ切っている。ちなみに後で気づいたけど、主人公乃凡が夫との間に儲けた娘の、15年後の姿も彼女によって演じられている。乃凡と娘が同時に登場する場面もあるので、そこは演出と撮影技術が駆使されている。

 若い頃を演じる阮玲玉もかわいいが(と言っても、そもそも本人が当時まだ21才かそこらなのだ)、中年になってからの姿が圧巻。愛する男性と駆け落ちして結果的に不幸になる若い女性、という話で終わってもいいようなものの、その15年後というプラス・アルファのストーリーが余計に感じられないのは、彼女の芝居を飽きずに見ていられるからだと思う。ちなみに、映画「ロアン・リンユィ 阮玲玉」で、主演のマギー・チャンが指摘していた「腕を引き絞る」という演技が、この映画でも随所で見られる。言われてみると、阮玲玉に特徴的な演技の一つだと思う。華奢なこともあって(腕とかすごく細い)、腕を引き絞る動作が、感情表現としてわかりやすく、印象的。

 恋人李祖役は、当時「映画の皇帝」と呼ばれた人気スター、焰。最初に大学生で登場した時には、(若さを強調するためだろうが)阮玲玉以上の白塗りだが、非常なハンサムである。その男ぶりは、それほど白塗りでなくなった5年後の時によくわかる。なお、李祖阮玲玉の乃凡との再会のきっかけは、公園の池で溺れた彼女の子を、たまたま李祖が助けたことによる。が、その池があきらかに浅くて、子供(幼児)の足がつくくらいの深さなので笑える。いやまぁ、そうじゃないと本当に溺れさすことになってしまうんだけど、それは。

 ところで今回この作品を見ていて、劇中の阮玲玉の姿勢がなんとなく気になった。富裕な若妻を演じている時でも、(私の目の迷いかもしれないが)常に心持ち猫背な気がする。でもこれは、彼女の姿勢が悪いというのではなく、当時はそれが女性のあるべき姿勢だったのではないかと思った。つまり、今のように胸を張ってしゃんとしているのが美しい、という感覚ではなかったのではないかと。あるいは、貞淑で善良な人妻(彼女は恋人と駆け落ちするが、悪女ではない)を表す身体表現として、体を内向き加減にするということをしていたのかもしれない。単なる憶測なんだけど。

 何はともあれ、上映が終わった時、「見たわ〜」ということが実感される、ボリュームある作品だった。201762日)