Sunday 8 July 2018

『映画』Ramen Teh(ラーメンテー)


201844
Ramen Teh(ラーメンテー)」・・・ようこそ、シンガポール!
公開年: 2018
製作国:  シンガポール/日本/フランス
監督:  Eric Khoo(エリック・クー)
出演: 斎藤工、Mark Lee(マーク・リー)、Jeanette Aw(ジャネット・アウ)、伊原剛志、松田聖子
見た場所: Golden Village Paya Lebar

 Eric Khoo(エリック・クー)の最新作は、食、シンガポールと日本の文化交流、地域振興という三大題目の人情ドラマである。Singapore Film Society(シンガポール・フィルム・ソサエティ)の上映会だったので、ゲストでEric Khooとプロデューサーで脚本も担当したFong Cheng Tang、劇中で主人公の祖母を演じたBeatrice Chienが来場。上映後にQ&Aコーナーがあったのだが、まーエリック・クーがしゃべるわしゃべる。

 ストーリーはいうと、群馬県高崎市で父(伊原剛志)、叔父(別所哲也)とともに人気ラーメン店を営んでいる真人(斎藤工)が主人公。父の死をきっかけに、子供の頃に亡くなった母(ジャネット・アウ)の家族を探すため、シンガポールに渡った真人。そこで、フード・ブログを通じて知り合った日本人女性(松田聖子)の助けを借りて、音信不通になっていた母の弟(マーク・リー)を探し当てる。母の実家は代々バクテーの食堂を営んでおり、店を継いでいた叔父は、真人との再会を喜んでくれたが、日本人嫌いの祖母(Beatrice Chien)の心は頑なだった・・・。


 バクテー(Bak kut teh、肉骨茶)は、シンガポール、マレーシア一帯で食されている、骨付きの豚肉をハーブやスパイスで煮込んだ中華系のスープ料理である。劇中では松田聖子演じる美樹が、その発祥から詳しく説明してくれている。実は私は、結構シンガポールに長く住んでいるのだが、一度もバクテーを食べたことがない。なので、若き日の真人の父が、「バクテーはラーメンに似ている」と言うのを、「そうなのかー」と思って見ていた次第である。

 上映時間89分。シンガポールの美味しそうな料理とその蘊蓄とともに、家族の心暖まるストーリーが展開する小品。良い言い方をすればそうなのだが、悪い言い方をすればなんとなく物足りない作品である。

 理由の一つは、この作品にはカットされている部分があるためではないかと。父の死後、結構サクッと真人はシンガポールに来てしまうのだが、実はその前に、真人とガールフレンドとのシーンがあったそうなのだ。しかし、ガールフレンドが半分裸だったため、そのシーンを入れると、シンガポールではレイティングPGparental guidance、日本のGPG12の間的なレイティング)にはならない。PGでないと興行主が嫌がり、配給が難しくなるので、カットしてしまったと。

 主人公真人は、母の死後、すっかり寡黙になった父を理解する機会のないまま、父に先立たれてしまったことを後悔している。また、早くに亡くなった母への思慕と、シンガポールに住んでいた子供時代、家族三人で食べたバクテーへの思い入れがあり、自宅では中華スープの研究に余念がない。そうした様々な思いが高じて、思い切ってシンガポールに行くことにしたはずなのだが、この高崎パートは前置き的な感じになっていて、なんだか物足りない。カットした分、短くなっているためではないかと思う。


 その割に、「ようこそシンガポール」的な、シンガポールの料理紹介には十分な時間を使っている感じがする。美樹に案内されて、チキンライスやらフィッシュヘッドカレーやらに真人が舌鼓を打つのだが、それは・・・必要なの?観客に対するシンガポール観光案内以外の意図としては、真人にシンガポールの食の深さを見せるとか、美樹と真人が親密になっていく様を表現するとか考えられる。でも、この食紹介のシーンで印象に残るのは、料理であって登場人物達ではない。そしてこれらの料理は、映画の本筋とは全く関係がないのだ。

 この作品の肝は、真人が祖母のためにRamen Teh(ラーメンテー)、つまりバクテーのレシピを元にしたスープを使ったラーメンを作る所にある。この料理が表現しているのは、中華系シンガポール人の母と日本人の父との間にあった深い愛、ひいてはその証でもある真人自身である。この真人のメッセージに答える形で、祖母は真人に料理を教える。真人の持っていた母の日記にあるレシピを、実際に彼と一緒に作るのだが、母のレシピはとりもなおさず、この祖母のレシピでもある。そしてここに、祖母、母、息子、三代に渡る和解と新しい門出が祝福される。この感動に落とし込むためには、これまでのエピソードが全て有機的につながっているべきなのだが、どうも部分的に観光案内を見せられたような、ちょっとバラバラな印象を受ける。

 あまり他の作品と比べてどうこう言いたくないのだが、この一週間前に、シンガポール人シェフが沖縄で郷土料理を学ぶ映画「Jimami Tofu(ジーマーミ豆腐)」を見た。日本の料理人がシンガポールに渡る「ラーメンテー」のちょうど反対になっている作品なのだが、その主人公ライアンが、沖縄に住んでいる感の非常にあった映画だった。ライアンがどういう種類のビザで沖縄滞在しているのか、むしろ心配になるくらいだった。一方この「ラーメンテー」を見ると、真人がシンガポールにやって来て一ヶ月くらいの間に、バクテーを習い、ラーメンテーを作り、祖母と和解して、自分の店を開いた、みたいに見える。特にラスト、真人がシンガポールにラーメンテーの店を開いていて、かつそれが人気店で、「こんな上手くいくんだ・・・」と驚く。このラストシーンに時間の経過がはっきりわかるものがあったら良かったのに、と思う。また、祖母との和解に至るまでに、もっと真人のシンガポールでの日常が描かれても良かったのではないかと思う。

 というわけで、面白いか面白くないかと聞かれると、面白い映画なのだが、どうも物足りないというか、もっと良くなったのでは、というちょっと残念な感じが残った。

 なお、私は個人的に高崎市に思い入れがあるので、劇中で松田聖子が「高崎市」という名前を出してくれていて、嬉しかった。しかし、高崎市といえば、ダルマと高崎観音になってしまうのね。201847日)

上映会当日。シネコンのロビーに設けられたシンガポール・フィルム・ソサエティのカウンター。

上映後のトーク。左からエリック・クー、
祖母役のBeatrice Chien、プロデューサーのFong Cheng Tang。

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