Sunday, 24 June 2018

『映画』Have a Nice Day(好极了/ハヴ・ア・ナイス・デイ)


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Have a Nice Day)」・・・SCUFF(Singapore Cult & Underground Film Festival)
公開年: 2017
製作国:  中国
監督:  Liu Jian(劉健/リウ・ジエン)
見た場所: *Scape

 Scum CinemaによるSCUFFSingapore Cult & Underground Film Festival)の時期がやって来てしまった。一年の経つのが早すぎて早すぎて。今年のプログラムは、このアニメーション「Have a Nice Day」、梶芽衣子主演の「銀蝶渡り鳥」、少年達が主人公のスリラー「Super Dark Times(ぼくらと、ぼくらの闇)」、バイオレンス・ホラーの「Killing Ground(キリング・グラウンド)」の四本だった。子供達が恐ろしい秘密を持ち合うことにも、キャンプに行ってひどい目にあうことにも、あまり興味がわかなかった(というよりも、私には恐すぎる)ので、「Have a Nice Day」と「銀蝶渡り鳥」を見に行った。ちなみに「銀蝶」は旧作のためか、無料だった。


 Xiao Zhangは、ギャングのボスの100万元を運ぶ途中、その金を奪って逃走。目的は、美容整形に失敗したガールフレンドを韓国に連れて行き、整形手術のやり直しをさせてあげるためだった・・・。ここから、100万元を取り戻そうとするボスを始めとして、大金を巡る様々な人々の姿が描かれる。自分の女を寝取った幼なじみの絵描きを締め上げるボス、ボスにXiao Zhangの追跡を依頼された表の職業は肉屋の殺し屋、アホなのか天才なのかよくわからない発明狂の麺屋のおやじ、なぜかシャングリラを夢見るXiao Zhangのガールフレンドの従姉妹等々、おかしな人達満載。しかし、なんとなく、地球のどこかにこういう人達がいるのではないかという、妙なリアル感がある。


 映像についても同様で、設定では中国南部の都市ということになっており、いかにもこういう町がありそうと思わせるほど巧みに描かれている一方、どこか違う惑星の都市のような雰囲気がある。全体的な色調が緑色っぽいせいかもしれない。そして、この独特の雰囲気があるからこそ、ラスト近くの怒濤の展開にも、なんとなく納得がいってしまった。

 大金が手に入ったらシャングリラに行くと言う従姉妹の言葉を受けて、突然始まるカラオケ映像風のシーン。監督自らが作詞した歌「I Love Shangri-La」に合わせてイメージ映像が展開していくわけだが、往年の共産主義ポスターのような絵柄になっている。従姉妹とその彼氏が二人並んで斜め上を向いている構図で、健康的に農作業をしたり家畜を育てたりしているのだが、二人とも青く染めた髪と長髪のままである。いや、なんだこの唐突なミュージカル・シーンは。可笑しい。

 ガールフレンドに整形手術を受けさせるのも、発明家として事業を興すのも、子供を海外に留学させるのも、全てに先立つものはお金である。それは確かにそうなのだが、第五世代の登場から30年を経て、まずは金、という作品を見ようとは。劇中、建設現場のセキュリティ・ガードの会話の中で、「三段階の自由」というものが語られている。第一段階は、「市場で買い物する自由」。商品は限られているが、交渉によって値引きを得ることも可能。第二段階は、「スーパーマーケットで買い物する自由」、そして最後の段階が、「オンライン・ショッピングの自由」。この最終段階では、人は世界中の商品を自分の好きなだけ買うことができる。友人からこの説を唱えられて、相手のセキュリティ・ガードは言う。「俺はまだ、第一段階の自由も十分に得ていない」。金を使えることが自由なのか、それとも、自由とは金で買うものなのか。ユニークな映像とともに面白いブラック・コメディだった。
 (なお、今回上映されたのは、2017年のベルリン映画祭出品時のバージョンだった。)

 翌日、「銀蝶渡り鳥」を見た。このタイトル、生物の名前が二つ入っていて、蝶なんだか鳥なんだかよくわからないなーと思った。それはともかく、梶芽衣子って美人だなーと思いながら見始めたのだが、予想外に、見ていくうちに渡瀬恒彦のことがどんどん好きになっていった。渡瀬恒彦、素晴らしいよ。これも面白い映画だった。201834日)

SCFFオリジナルデザイン、「銀蝶渡り鳥」のポスター

Monday, 18 June 2018

『アートエキシビション』Making Chinatown(映画「チャイナタウン」を作る) Ming Wong(ミン・ウォン)


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Making Chinatown(映画「チャイナタウン」を作る)」・・・またミン・ウォンだらけ
制作年: 2012
形態: 5つのビデオ・チャンネルによるミクストメディア・インスタレーション
作:  Ming Wong(ミン・ウォン)

 「Making Chinatown」は、Singapore Art Museumの分館SAM at 8Qで現在開催されている「Cinerama」という展覧会の中の一作品。シンガポール出身のアーティストMing Wong(ミン・ウォン)の旧作である。

「Cinerama」のプログラムの表紙。これがミン・ウォン。

 映画を模倣した映像作品を作るミン・ウォン。私が以前に見たのは、シンガポールのHermes Gallery (エルメスのブティックの上にあるギャラリー)での「Life and Death in Venice」だった。ルキノ・ヴィスコンティの「ベニスに死す」のパロディ。あるいは、脱構築というかアーティスト本人による再構築である。第53回ヴェネツィア・ビエンナーレの時に始まったプロジェクトで、主人公の老作曲家も美少年タジオも彼自身が演じている。老作曲家に扮してベニスの街をウロウロするミン・ウォンの姿が印象的だった(面白かった)。ちなみにミン・ウォンには悪いが、この作品のタジオは美少年でもなんでもなかった。

 今回の作品は、ロマン・ポランスキーの「チャイナタウン(Chinatown)」である。作品中のいくつかの名シーンを、やはりミン・ウォン本人が演じている。ジャック・ニコルソンが演じた主人公ギテスはもちろんのこと、フェイ・ダナウェイもジョン・ヒューストンもベリンダ・パルマーも、彼らの役は全てミン・ウォンによって演じられる。スクリーンの至るところにチャイニーズ系シンガポーリアンのミン・ウォンがいるという、まさに一人「チャイナタウン」。ジャック・ニコルソンのミン・ウォンに仕事の依頼をするジョン・ヒューストンのミン・ウォンとか、ジャック・ニコルソンのミン・ウォンとフェイ・ダナウェイのミン・ウォンとのベッド・シーンとか。ちなみに芝居は熱演。特にフェイ・ダナウェイのモーレイ夫人を演じる際は。

フェイ・ダナウェイのミン・ウォンに
ジャック・ニコルソンのミン・ウォン
一つの画面に二人のミン・ウォン
とにかくミン・ウォン

 ポイントは、予算の許す限りオリジナル作品に寄せてきている、模倣しているのだが、あえて完全にコピーしないという点にあると思う。例えば、フェイ・ダナウェイの扮装をした際には、眉毛の上に肌色のテープを張って、そこに細い眉を描いていることが明らかにわかる。ジャック・ニコルソンが怪我をした鼻に当てていたガーゼを取ると、必要以上に血だらけでひどい傷が現れる。パロディとして可笑しい。私は「チャイナタウン」を見て、ジャック・ニコルソンがジョン・ヒューストンに会ってあれこれ言わなかったら、あんなことにはならなかったのではと思い、なんとなく不愉快になった。でもこの作品を見て(もちろんラスト・シーンも模倣されている)、なんとなく気が晴れた。

展示の様子。スクリーンとともに背景映像のコピーが壁に張られ、小道具が置かれている。

 作品中がミン・ウォンだらけなのを見て、ジョン・チョー(映画「スター・トレック」のスールー役が有名な韓国系アメリカ人)が主役のハリウッド映画があってもいいんじゃないか、みたいな話を思い出した。「チャイナタウン」は、白人で部外者であるギテスがかつて警察官としてチャイナタウンに勤務していたからこそ、象徴的な意味合いとともに「チャイナタウン」というタイトルだったはず。しかし、「Making Chinatown」では、人種もジェンダーも、オリジナル作品が依ってきた全てのものが曖昧になる感じ。あのジャック・ニコルソンがフェイ・ダナウェイを殴る有名なシーンでも、ミン・ウォンのモーレイ夫人は「my sister, my daughter」だけでなく、「my son, my brother」とも言うのだ。一回見たら忘れられない作品。2018221日)

会場であるSAM at 8Q