2017年9月7日
「And So You See(アンド・ソー・ユー・シー)...Our Honourable Blue Sky And Ever Enduring Sun...Can Only Be Consumed Slice By Slice...」・・・Singapore International Festival of Arts (SIFA)
国: South Africa
製作: City Theater & Dance Group
作: Robyn Orlin
パフォーマンス: Albert Silindokuhle Ibokwe Khoza
見た場所: SOTA Studio Theatre
タイトルが長いが、短く言うと「And You See...」は、南アフリカのコリオグラファー/アーティストであるRobyn Orlinが、ダンサーAlbert Ibokwe Khozaとともに作った作品である。単純なダンス作品ではなく、パフォーマンスアート的である。
舞台背後には大きなスクリーン、手前には観客に背を向けた安楽椅子。椅子には、カーテンのような布で包まれたものが置いてある。スクリーンにはそのカーテンが拡大して映されているが、その「もの」は呼吸をしているように見える。モーツアルトのレクイエム(らしい)が流れ始めると、舞台背後のベンチにいた男性が、椅子の上の「もの」のカーテンを取って行く。スクリーンの映像は以前より全体がわかるように映し出されており、椅子の向こうで布を取り払われたものが何なのか、私達観客にもよくわかる。それは、透明のプラスチック・ラップで包まれた肉塊であった。男性がナイフでラップを切ると、その肉の塊は動き出す。今やそれは、とても太った人間となり、身体に半分ラップを付けたまま、軽快に歩き回り、歌い踊る。男か女かは、よくわからない。
上演前。カーテンみたいな布に包まれた何か。 |
ここから、この男か女かよくわからない(実は男性)太ったダンサー、Albert Ibokwe Kohzaのオンステージとなる。ビデオ・カメラが、椅子を正面から捉える位置と天井に設置されており、先ほどのプラスチック・ラップを切った男性が、ベンチのところで適宜切り替え操作を行っている。観客は、たとえAlbert Ibokwe Kohzaが椅子に座って背を向けていても、スクリーンに映し出されるカメラからの映像によって、彼の顔を正面から見ることができる。
山羊か羊(と思うけど)と交わる動きをし、ナイフで切ったオレンジをむさぼり食べ、ここで今まで体についていたプラスチック・ラップを全て取ってパンツ一枚になる。そして客席から女性観客を二人選び出して、自分の体を拭かせる。「サンキュー、メルシー、オブリガード」などと歌いながら、「シュシュシュシュ」と言いながら踊る。自分の大きな腹を使って腹芸を見せる。そして豹柄のパンツをはくと、鏡を持ち出してメーキャップをし、宝石のついた指輪を着け始める。南アフリカでは庭の土を掘るとこれが出てくる、みたいなことを言いつつ。「皆が私をうらやましがる」と歌いながら踊る。さらに、背後のスクリーンでは、巨大なロシアのプーチン大統領が踊り始める。プーチンを責め、金を乞い、一緒に踊ろうとする。一緒に踊りたがらないのは自分が黒人だからか、などとスクリーンのプーチンに叫ぶ。大統領がスクリーンから消えた後、孔雀の羽根のような飾りを背中に着ける。それは、宝塚のレビューやブラジルのサンバの衣装のような装備だが、暗い派手さで七色の蛾のように見える。それで歩き回り、奇声を発する。最後は全裸になり、首にかけた青色ペイントを入れたネックレスを使って、全身を青く塗り、美しく歌う。スクリーンの映像が揺らぎ、移動して、最後に彼の青い腹の上に映し出される。ぼんやりしたそれが次第にはっきりしてくると、小銃を持った子供の背に白い蝶の羽根が重なっている映像であるとわかる。そしてAlbert Ibokwe Kohzaは舞台から去る。
プログラムの解説を大雑把にまとめると、この作品は、新時代を迎えて20年を経た現在の南アフリカの葛藤を念頭に置きつつ、七つの大罪をモチーフとして“人間性へのレクイエム”を表現したものらしい。七つの大罪と言われると、Albert Ibokwe Kohzaの一連のパフォーマンスは、それぞれが七つのどれかに当たっているように思われる。しかし、この作品を見て私が最初に思ったのは、太ったオネエキャラのピン芸人がテレビでできない芸を舞台で披露している、みたいなことだった。動物の鳴き声のような奇声を発したり、自分の腹の肉をつかんで顔を作ったり。切ったオレンジをナイフに刺し、それをナイフごと口に入れて食べるかと思えば、「サンキュー、メルシー、オブリガード」などと歌いながら踊る。大道芸を見ているようでもあれば、アホな小学生がふざけているのを見せられているようでもある。変な生き物をあっけにとられつつ見た感じ。
しかし、ダンサーが自由奔放に振る舞っているように見せてはいるが、その実よくコントロールされた作品であると思う。椅子の正面に設置されたビデオ・カメラは、椅子に座ったAlbert Ibokwe Kohzaの顔を正面から捉え、それを背後のスクリーンに映している。オレンジを食べる時も、メーキャップをする時も、スクリーンの彼は正面を見据えている。それはつまり、自分の手元を見ることなくナイフ(と言っても小さな果物ナイフではなく、包丁である)でオレンジを切り、ナイフに刺したオレンジを口に持って行っているのだ。包丁を口の中に入れている時も正面を見ており、よくこんな恐ろしいことをするな、と思った。鏡に顔を写しながら化粧をする時もやはり正面を見ているので、これもまたよく上手いこと化粧をするな、と思ったのだった。
また、クライマックスで青いペイントを全身に塗る際、全裸である。しかし、照明の絶妙な加減によって大きなお腹の影になるため、彼の下腹部は見えない。なんだか妙なところに感心しているようだが、そういうこともあって、パフォーマーたるAlbert Ibokwe Kohzaは、最後まで男か女かよくわからない。男のような女のような生き物、一個の裸の人間の身体であった。
プラスチック・ラップに包まれた肉の塊が自由を得た。それは罪にまみれ、凶暴で醜く、グロテスクである。しかし同時に、目の離せない何か、その存在に対する言い知れない痛み、七色の蛾のような奇妙な美しさがある。それはまた、青い色が想起させる、悲しさだったかもしれない。(2017年11月30日)
上演終了後の舞台。オレンジや羽根、いろいろなものがある。 |
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