Tuesday 29 September 2020

『映画』Alpha, The Right to Kill(アルファ 殺しの権利)

 

2018127

Alpha, The Right to Kill(アルファ 殺しの権利)」・・・Singapore International Film Festival

公開年: 2018

製作国: フィリピン

監督: Brillante Mendoza(ブリランテ・メンドーサ)

出演: Allen Dizon(アレン・ディゾン), Elijah Filamor(エライジャ・フィラモー)

見た場所: Filmgarde Bugis+

 

映画祭プログラムからのあらすじ

フィリピン政府が進める麻薬撲滅戦争の中、マニラ警察は街の大物ドラッグディーラーの一人、アベルを逮捕するためのおとり作戦を準備する。作戦の鍵となるのは、貪欲な警察官エスピノと彼の情報屋(訳者注:警察の隠語でアルファという)であるエライジャ。エライジャは末端の麻薬密売人であり、アベルの信用を得ていた。SWATチームがスラム街を急襲すると、状況はたちまち警察とアベル達ギャングの一味との激しい衝突へとエスカレートしていく。(原文は英語)

 

  

 Singapore International Film Festival(シンガポール国際映画祭)で上映された作品。「Midnight Mayhem(深夜騒乱)」という枠のプログラムで、深夜1155分からの上映だった。

 

さて、フィリピンはマニラの警察署。古ぼけた警察署ビル内はいつも逮捕された被疑者で溢れかえっている。そのため窮屈で、しかも仕事が永遠に終わらなさそう。ここで働いているとノイローゼになるかも、という環境である。そして今、警察ではアルファであるエライジャをおとりに使った大物ドラッグディーラー逮捕のオペレーションを、実行に移さんとしていた。急襲作戦を前に緊迫感あふれる警察署内。マッチョな男達による気骨あるミーティング。それから舞台は大物ディーラー、アベルのアジトがあるスラム街へ。SWATチームが配置につき、おとりがアベルに接触、・・・そして急襲!銃撃!手に汗握るアクションが展開されていく。リアリティあるオペレーションの模様が描かれる一方、夜の大都会、屋根の上を逃げていく麻薬密売人達を空から撮ったシーンは、非常に美しい。今回の作戦の一員である警察官エスピノは、アベルが持ち出そうとした金と麻薬の詰まったデイパックを確保!警察の勝利!かと思いきや・・・えっ、それ持ってくの?エライジャに渡して?盗むの?

 

ここまでは、いかにも雑誌「映画秘宝」が好きそうな映画だなぁと思いながら、わくわくして見ていたのだった。そしてここから、悪徳警官を主人公としたノワール&アクション映画として展開していくのかなぁと思っていた。思っていたのだが・・・違った。この急襲作戦以降で描かれるのは、中流階級である警察官エスピノの生活であり、貧困にあえぐ麻薬密売人エライジャの生活である。特に、ゴミ集積場で妻と赤ん坊と暮らすエライジャの生活には悲しくさせられる。巨額の価値のあるデイパックを盗む手助けをしたにも関わらず、エスピノから渡されるのはほんの小遣い銭である。エライジャが近所の商店でおむつをバラ買いする(一パック買うお金はないので、「紙おむつ3個」みたいな感じで買う)その日暮らしぶりを見ると、こちらが落ち込む。そういうわけで、家庭人であっても、裏の顔ではエライジャのような下の者に高圧的なエスピノに、どうしても好感が持てない。しかし、そのエスピノも、表と同様、裏の世界でも中間管理職に過ぎないのだった・・・。

 

 エスピノもまた、麻薬で稼いだ金を「上納」しなくてはならない身分であり、その相手はもちろんギャングなどではなく、警察署にいる人物である。麻薬撲滅戦争の裏側、結局それは、「悪い奴ほどよく眠る」というピラミッド構造にすぎない。貧困層が浮かび上がれないのは、表の社会と変わらない。食うや食わずの末端の人間だけが取り締まられ、そして最も命の危険にさらされている。この映画で描かれる三人の人物、エライジャ、エスピノ、そしてこのピラミッドの頂点にいる人物は、「仕事」を離れれば三人ともが良き夫、良き父として描かれている。そこが恐いと言えば恐いところで、犯罪者だからと言って、特別な人々というわけではないのだ。

 

 映画は警察パレードで始まり、そして警察パレードで終わる。エライジャ達の物語を見て来た者にとっては、このラストシーンがなんと皮肉に見えることか。血湧き肉踊る警察のオペレーションの模様から一転、社会矛盾を比較的地味に描き込んだこの映画、見終わっても清々しい気持ちには全くなれない。しかし、警察好きな人は、前半部分をかなり堪能できるのではないかと思う。

 

 ところで、映画の中で伝書鳩に麻薬をつけて買い手に届けるというシーンがある。売り手と買い手が接触するのを避けるためなのだろうが、この古いような新しいような方法で、意外に買い手はきちんと支払っている様子である。やはり未払いにすると消されるせいだろうか。それにしても信用商売なんだなぁと思った。2020521日)

 

麻薬密売人としてまじめに働くエライジャ

 

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