Monday 14 May 2018

『映画』Operation Lipstick(諜網嬌娃/オペレーション・リップスティック)+ パネル・ディスカッション「Secret Spies Never Die!」


20171126
Operation Lipstick(諜網嬌娃/オペレーション・リップスティック)」・・・Singapore International Film Festival
公開年: 1966
製作国: 香港
監督:  Inoue Umetsugu(井上梅次)
出演: Cheng Pei-Pei(チェン・ペイペイ), Chin Fei, Paul Chang-chung
見た場所: National Museum of Singapore

 やはりSingapore International Film Festivalのスパイ映画特集である。日本の井上梅次監督が香港のショウ・ブラザーズで撮った作品で、やはりジェームズ・ボンドの007シリーズから始まった当時のスパイ映画ブームに乗っかっている。1960年代にショウ・ブラザーズと契約していた井上梅次は、「Hong Kong Nocturne(香江花月夜)」(1967年)や「Hong Kong Rhapsody(花月良宵)」(1968年)のようなミュージカル作品の監督として、ショウ・ブラザーズ栄光の歴史にその名を刻んでいる。そしてこの作品もまた、主演のCheng Pei-Pei(チェン・ペイペイ)のキュートさ満載の、モダンなスパイ・ミュージカル・コメディとなっている。

プログラムのスパイ映画特集のページデザイン。すてき。

 さて、「Operation Lipstick」は前述の「The Hand of Fate」と同日に、同じNational Museum(シンガポール国立博物館)で上映された。14時から「The Hand of Fate」、そして19時から「Operation Lipstick」だったが、その間に「Secret Spies Never Die!」という、特集上映と同じタイトルのパネル・ディスカッションが行われた。「The Hand of Fate」の観客数も多くなかったが、このパネル・ディスカッションの参加者も20人いないくらいで寂しかった。しかし、内容はたいへん興味深く、かつ始まる前にビュッフェ式の軽食が出され、なんかもうけた気がした。ちなみに映画は有料だが、パネル・ディスカッションは無料イベントである。3人のスピーカーが、各々15分間の持ち時間でスパイ映画に関するプレゼンを行い、その後参加者からの質問を受け付けるという形だった。3人とも内容が濃いため、持ち時間15分はそれほど守られていなかったけど。各スピーカーのテーマはまちまちだったが、大枠としては、007シリーズのヒットに端を発するスパイ映画ブームがアジア各国に与えた影響について。モデュレーターは、「The Hand of Fate」上映前に作品紹介を行ったNanyang Technological University(南洋理工大学)のAssistant ProfessorMr. Lee Sang Joon。各スピーカーとテーマは以下の通りである。

       Mr. Leong Yew (Senior Lecturer, National University of Singapore)
シンガポールのスパイ映画「Gerak Kilat」、その作品と当時の社会的反響
       Mr. Tan See-KamAssociate Professor, University of Macau
映画会社ショウ・ブラザーズのスパイ映画戦略
       Mr. Andrew Leavold(著述家・映画作家)
ジェームズ・ボンド映画大国フィリピン、その究極である「For Your Height Only

向かって左から、Mr. Leavold、Mr. Tan、Mr. Yew、Mr. Lee(モデュレーター)

  このパネル・ディスカッションの後、「Operation Lipstick」を見ることになっていたので、Tan先生に質問をしてみた。なぜ、香港のショウ・ブラザーズが日本の映画監督を雇っていたのか、という質問。Tan先生いわく、井上梅次は実名でクレジットされているが、実は当時、作品に日本人名でクレジットされていないものの、多くの日本人スタッフがショウで働いていた。(ちなみに「Operation Lipstick」の撮影は西本正(賀蘭山)、音楽は服部良一である。)Tan先生が思うところでは、ショウは日本映画のある種の洗練さやポルノ的なエロ要素というものを取り入れたかったのではないかと。そもそもショウ・ブラザーズは、日本人に限らず、西洋音楽を使いたかったらフィリピンからミュージシャンを、というように適材適所で人を雇った。それはおそらく、中国大陸を除く東・東南アジア全てをターゲット・マーケットと見なしていたショウにとって、理に叶ったことであっただろう。スパイ映画についても、彼らが作っていたのは無国籍的というか、汎アジア的な作品だった。どこの国の観客が見ても接点が感じられるような作りだったのである。

 そんなわけで、私にとっては充実したイベントだった。なお、Mr. Leavoldが紹介していた小人の「エージェント00」が活躍するスパイ映画「For Your Height Only」が見たくてたまらなくなった。(Mr. Leavoldは、この「For Your Height Only」に主演した身長83cmの俳優、Weng Wengについての映画「The Search for Weng Weng」の監督でもある。)

参加者は少なかったが・・・

軽食も出たよ。

 そして話は戻って、「Operation Lipstick」である。元スリで今はナイトクラブの歌手をしているLee Bing(チェン・ペイペイ)は、ひょんなことから新型の原子力兵器に関する秘密(どういうものだったのか、この辺は記憶が曖昧。すまない)が記されたマイクロフィルムを巡る争奪戦に巻き込まれる。政府の諜報機関に雇われたLee Bingは、悪のシンジケートや謎のフリーランス(って・・・)のエージェント(Paul Chang-chung)を向こうに回して大騒動を繰り広げる、というお話。

美女三人の死闘

 冒頭で、その原子力兵器の生みの親である博士が誘拐され、殺される。クレジットを表示しつつ、そこまででわずか56分くらい。素晴らしい手際の良さである。そんな犯罪アクションの後、次のシーンで突如現れるのは、ステージ上の巨大なハリボテのケーキ。二人の踊り子が、ケーキに向けて大砲を放つと・・・中から出て来たのは、キュートでセクシーなヒロイン、チェン・ペイペイ!そして歌って踊り出す。この最初の10分間くらいの澱みなさと楽しさは格別。これから見る映画に対する期待が、ぐっと盛り上がる所である。

 この映画はスパイものであるとともに音楽映画でもあるので、ナイトクラブのシーンだけではなく、「泥棒の王様」、Lee Bingの父が地下のアジトで手下達と歌ったりもする。そんなミュージカル・シーンも楽しいが、一番の見所は、トルコ風呂でLee Bing以下美女三人が、バスタオル一枚の姿で繰り広げるマイクロフィルムの奪い合い。(ちなみにこのトルコ風呂は、昔日本で使われていた意味の「トルコ風呂」ではない。マッサージ師は女性だが、サウナ等の設備を備えた男性向け大浴場である。)この映画の上映前、前述したTan先生が作品紹介を行ったが、子供の頃にこの作品を見たという先生の思い出は、「シャンデリアか何かの下で、バスタオル姿の女達が騒いでいる」(だったかな)。まさにその通り。このトルコ風呂のキャットファイトに続く、香港島・九龍間のフェリー上でのスラップスティックな大乱闘も、素晴らしい演出。

 今見てもおしゃれでモダンな感じがし、切るべき所は切り見せるべき所は見せるメリハリで、最後まで楽しい映画である。最近の娯楽映画は、上映時間が余裕で2時間を超えるようなエピックのため、「真面目に」見ないといけないような作品が多い。音や色の贅沢さを味わいながら気軽に楽しめ、見終わった後、「あぁ、面白かった」と自然に思える、この映画のような作品は得難くなってしまったような気がする。私が見た他のスパイ映画に比べると、観客が結構いて(100人くらい?)良かった。家で一人で見ても面白い作品だが、たくさんの人と笑いながらスクリーンで見るとより楽しいと思う。 

 ところで、悪のシンジケートが巣食うナイトクラブにやって来たLee Bingは、ステージで歌う三人の殺し屋達に命を狙われる。岡本喜八監督「暗黒街の対決」で3人のギャングが「月を消しちゃえ」を歌うのを思い出した。あれは口パクという設定だったけど、こちらは実際に歌っている体だった。そして曲調は、歌う殺し屋達を斜め構図で撮って緊迫感を高めているにも関わらず、やたら楽しげだった。2018125日)

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