Sunday 30 November 2014

『演劇』A Beautiful Chance Encounter of a Sewing Machine and an Umbrella on an Operating Table(解剖台の上のミシンと雨傘との美しい偶然の出会い)


2014328
A Beautiful Chance Encounter of a Sewing Machine and an Umbrella on an Operating Table(解剖台の上のミシンと雨傘との美しい偶然の出会い)」———野暮さからの美
国:シンガポール
カンパニー: Teater Ekamatra(シアター・エカマトラ)
演出: Irfan Kasban (イルファン・カスバン)
出演: Farah Ong, Hanz Medina, Lynn Yang, Nabilah Said, Nur Khairina, Rohana Akhbar, Ruby Jayaseelan, Tan Jia Yee, Vignesh Singh, Zul Mahmod
見た場所:ブギス駅近くのヴィクトリア・ストリート沿いの広場

 
 Teater Ekamatraのブギスの広場での公演に行った。毎日夜の8時から3日間上演された。無料である。街中の広場の一角に、突如として現れた2階建ての鉄骨むき出しの建物。そのぐるりに、観客用のビニールシートが敷いてあり、さらにその外側に丸く囲むように柵が設けてある。この建物を中心に、10人ほどの俳優が、用意された装置や小道具を使いつつ、それぞれ好き勝手な動きを見せている。装置や小道具は、布や石、椅子、鏡など日常的なものから成っている。観客は、その建物の周りで、好きなように(どこからでも)彼らを見物できる。ストーリーもなく、全体的に一つの流れを持ったパフォーマンスをしているわけでもなく、観客はいつでも好きな時に来て、立ち去ることができる。全体の上演時間としては90分ほど。私は10分ほど遅れて行って、最後までいた。

 蚊に刺されて、それは辛かったが、でも、頑張ってそこにいた。それは、見ただけでなんとなく嬉しくなるような公演だった。シンガポールでも、こういう良い意味で泥臭いパフォーマンスをする人々がいるのだな、と思って。

 俳優達はそれぞれのキャラクターを発揮しつつ、思い思いのパフォーマンスを行う。基本的に彼らは互いに関係し合わずに勝手な行動をしているが、時に他者とつながりを持つこともある。ある男性は、椅子の背に服を着せて子供か恋人のように抱きかかえ、ある女性は、足につけた鈴を踏みならしつつ、古ぼけた布をガウンのようにはためかせながら女王のように練り歩く。鉄骨にハンモックのように結びつけられた布を使って、ブランコをして遊ぶ人々もいれば、バケツの水を他の人にかけたりする人もいる。手提げ鞄を持って建物の反対側からやって来て、散らかった様々な物をショッピング・カートの中に片付けたり、鏡を持ち出して、それを観客の顔の前に突きつけたり。一人が両手を紐でくくられ、もう一人がその紐を持って、二人で建物の周囲を歩いて回ったり、等々。

 これは、90分間の動く活人画だろうか。それとも、精神病院を象徴しているのか。はたまた、日常生活の、あるいは太古から現代につながる人類の歴史の、いや演劇のパロディか?

 この公演のタイトルは、シュルレアリスム文学に影響を与えた、ロートレアモン伯爵の詩の一節から採られている。一見でたらめで猥雑に見える中から、思わぬ美と刺激を発見することを主眼としているのではないかと思う。特に演劇においては、スタイリッシュなもの、整ったもの、洗練されたもの、清潔なものから、人の心を動かすような美しさが立ち上がるわけでもない。人が人に身体を曝して何かを表現する以上、その生々しさからくる泥臭ささ、エネルギーが人の心を打つのだと、私は思っている。そしてそこから美も立ち現れるのだと。だからこそ、この公演の泥臭く安っぽい感じは嬉しかった。それなのに、いや、それだからこそ、理屈抜きに、ある瞬間はとても印象的で、美しいのだ。

 観客の中には、ワインを持ち込んで、楽しく一杯やっているような人達もいた。ストーリーや意味を追って行く作品ではないので、そうやって緩い感じで見るのもありではないかと。あまり考えてはいけない気がした。私も途中で帰っても良かったのだが、どうやって終わるのかが気になって、結局最後までいた。最後は、作のIrfan Kasbanが現れて、俳優達一人一人の肩を叩いて終了を告げる。俳優達は、笊にすだれをつけて顔が隠れるようにした帽子のようなものを被って、一人一人会場を去って行った。そのまま歩いて近く(アラブ・ストリート)の劇団事務所まで帰ったものと思われる。なお、公演のチラシは文字だけなのだが、そのデザインがロシア・アヴァンギャルド風(と言えばいいのか)で、とても美しかった。201447日)

レビューの英語版はこちらをクリックしてください。





 

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